スタッフブログ

2023年09月03日 (日) 能楽関連

「夏休み能楽こども相談室」を開設しました

横浜能楽堂では夏休みにあわせて、

能楽についての質問に横浜能楽堂のスタッフがメールでお答えする「夏休み能楽こども相談室」を開設しました。

能楽堂での公演鑑賞やワークショップを体験して疑問に思ったこと、

自由研究や宿題に取り組む中で、能・狂言や能楽堂についてわからないと感じたことを受け付けました。

皆さまのご参加、ありがとうございました! ※現在は受付を終了しています。

いただいた質問をいくつかご紹介します。

 

〇狂言には昔の話しかないの? 新しいお話を作らないの?

→上演される機会は少ないですが、新しいお話は、現代でも作られています。マンガを題材としたものもあります。

 

〇どうして歩き方が決まっているの?

→昔からの歩き方を取り入れて作られているからです。

能・狂言には「型(かた)」と呼ばれる動き方の決まりがあり、

立ち方や座り方、歩き方、扇の使い方など細かい決まりがあります。

その「型」を決められた通り、無駄な動きをせず行うため、決まった歩き方になります。

 

〇昔も立派な衣装だったの?

→能・狂言で使用する衣裳のことを「装束(しょうぞく)」と呼びます。

現在使用されている「装束」が完成されたのは、今から約300年前、江戸時代だと考えられています。

江戸時代には能・狂言は江戸幕府の式楽(公式行事に演じられる芸能)となり、

将軍や大名たちが、当時の武家の美意識や精神性を反映させた能・狂言専用の「装束」を作りました。

それより以前は、「小袖」と呼ばれる当時、日常に着られていた着物などが用いられていたようです。

 

〇動画に大昔のことは残っていないけれど、どうして昔のままできるの?

→能・狂言は「口伝(くでん)」と呼ばれる、人から人へと直接に芸を継承する方法が取られています。

「謡本(うたいぼん)」と呼ばれるセリフや歌い方を記した台本や、

「型付(かたつけ)」と呼ばれる動き方などを記した書物が昔から受け継がれていますし、

現在では過去の動画や音源などを見て学ぶこともあります。

ただ、基本的には師匠から弟子へ、そしてまた次の世代へと直接教えを受けることで、

謡い方や、動き方だけでなく、細かな間合いや心の持ち様など、表面的には分からない部分まで学んでいます。

もちろん、昔のまま、600年以上変わっていないこともたくさんありますが、

各時代の影響や代々の人たちが工夫を加えることによって、少しずつ変化もしています。

そういう意味では、現代に生きる芸能と言えます。

 

 

この他にもたくさんの興味深いご質問、ありがとうございました。

横浜能楽堂は大規模改修工事のため、

令和6(2024)年1月から令和8年6月頃までの約2年6か月間、全館休館いたします。

休館前の横浜能楽堂にお越しいただけるのもあと4か月。

公演・ワークショップ・施設見学などをご用意して、皆様のご来館を心よりお待ちしております。

 

2023年07月08日 (土) 公演情報

正倉院御物から復元された古代の楽器の音色とは?!(8/5 横浜能楽堂「中締め」特別公演 第1回「芝祐靖の遺産」)

(↑平安時代の舞楽などの様子が描かれた巻物より。どんな音色だったのでしょうか…?)

 

8月5日に横浜能楽堂で、雅楽演奏団体の伶楽舎を迎えて「芝祐靖の遺産」と題した公演を開催します。
故・芝祐靖(しば・すけやす)さんは、800年余の歴史ある雅楽の家出身。宮内庁楽部で活躍した後、伶楽舎(れいがくしゃ)を創立しました。笛の名手であるだけでなく、数多くの作曲を手掛け、雅楽の世界に革新をもたらした人物です。

 

芝さんが生前関わった大きな仕事のひとつに、古代の楽譜の解読・復曲や、現在は廃絶してしまった古代の楽器の復元作業があります。今回の公演で取り上げる芝さんの作品2題のうちのひとつ、「敦煌琵琶譜による音楽」は、その取り組みの代表作。1,000年以上前、唐代末~五代頃につくられたとされる「琵琶譜」(約100年前に中国・敦煌で発見されたもの)をもとに復元された楽曲群です。

今回の公演では、その中から、以下の8曲を上演します。
『急胡相問(きゅうこそうもん)』
『傾盃楽(けいばいらく)』
『風香調 調子(ふうこうちょう ちょうし)』
『西江月(さいこうげつ)』
『伊州(いしゅう)』
『長沙女引(ちょうさじょいん)』
『急曲子(きゅうきょくし)』
琵琶独奏『傾盃楽』

 

これらの作品は、正倉院御物から復元された古代の楽器のために作られました。
正倉院には、「排簫(はいしょう)」や「箜篌(くご)」など、現在は廃絶してしまった多数の楽器が残っており、芝さんはその復元作業に携わった一人。古代の音楽の「復元」とはどのようなものなのか、横浜能楽堂YouTubeチャンネルで、芝さん本人によるお話と、排簫の実演がご覧いただけます。動画の最後で、『急胡相問』の一部もお聴きいただけます。

 

8月5日の公演では、ほかにも珍しい古代の復元楽器が勢揃い!
以下、「敦煌琵琶譜による音楽」で使う楽器を一挙にご紹介します。
各楽器の紹介文は、CD『芝祐靖の音楽 復元正倉院楽器のための「敦煌琵琶譜による音楽」』(伶楽舎) のブックレット解説「使用楽器について」(宮丸直子さん執筆) をもとに構成させていただきました。
(写真提供:伶楽舎 ※写真の無断転載を禁ず)

 

排簫(はいしょう)

18本の竹を縦に並べたパンフルートの一種。
正倉院に残る「甘竹簫(かんちくしょう)」から復元しました。
芝さん本人による実演映像はこちら(前述と同じ動画です)

 

笙(しょう)・竽(う)

17本の細い竹を縦に束ねた楽器で、そのうち15本の根本にフリーリードが付き、吹き口から息を吹き入れたり吸ったりして音を鳴らします。正倉院には現行の楽器と同型の笙が3管残っています。
竽は笙と同型の楽器で、笙より1オクターブ低い音域を奏します。(写真は竽)

 

横笛(よこぶえ)

現在雅楽で用いられている龍笛のルーツ。現行楽器とは違い、竹に穴をあけただけの素朴なつくり。正倉院には、竹のほかに、玉や象牙で竹を模した管があり、計4管残っています。

 

篳篥(ひちりき)・大篳篥(おおひちりき)・メイ

正倉院には遺品はありませんが、古くは大小の別があり、現行の篳篥は「小篳篥」にあたるとされています。記録にのみ残る「大篳篥」を、低音域を奏する楽器として復元。本曲では、さらに低音域を奏する同類のダブルリード楽器として、トルコのメイも使用します。(写真は上からメイ、大篳篥、篳篥)
実演映像はこちら

 

正倉院尺八(しょうそういんしゃくはち)

正倉院には、竹以外に大理石、象牙、蛇紋岩など合計8管もの尺八が残っています。これらは現在の尺八よりも小型で、指孔の数も中世以降に伝わった尺八とは異なるため、他の尺八と区別するために正倉院尺八と呼んでいます。

 

箜篌(くご)

竪型のハープ。正倉院には2張の残欠のみが伝わっています。
破損部分を補い復元すると、脚部まで160cm程となる大型楽器。23本の絹の絃が張られています。
実演映像はこちら

 

琵琶(びわ)

正倉院には5面が伝わっています。この楽器が正倉院の時代から全く変わらない姿で伝えられ続けていたことが、敦煌琵琶譜の解読に役立ったそうです。こちらの写真は、現行の雅楽器(四絃琵琶)。本曲では、復元された五絃琵琶も使用します。

 

鉄絃箏(てつげんそう)

現行の雅楽の箏と同型で、やや小ぶり。正倉院には破損した断片が4面以上確認されており、構造は現行の雅楽器とは異なります。正倉院には絹絃も残っていますが、音色を中国の古箏に近づける意図から金属絃を用いています。

 

阮咸(げんかん)

正倉院には2面が伝わっています。細い撥か指で弾いたとされています。この楽器を好んだとされる竹林七賢の一人、阮咸にちなんでこの名前になりました。
実演映像はこちら

 

方響(ほうきょう)

音階に調整した長方形の金属片を枠に吊るした大型楽器。金属片を打って音を鳴らします。正倉院には10cm~15cmの9枚の鉄片が残っています。
実演映像はこちら

 

磁鼓(じこ)

正倉院の「三彩鼓胴」の復元品。床に置き、両手に撥を持ち、両面を打って奏します。(国立劇場蔵)

 

ちなみに、上記の楽器のオリジナルの画像を、正倉院ウェブサイトで見ることができます。

 

これらすべての古代の楽器が舞台上に並ぶ見た目は壮観ながら、華やかだけでない、どこか懐かしい音色が魅力。今回は初めて、コンテンポラリーダンスを交えて上演します。

なかなか観られない貴重な機会、8月5日はぜひ横浜能楽堂にお運びください!

 

*8/5 横浜能楽堂「中締め」特別公演 第1回「芝祐靖の遺産」の詳細はこちら

 

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