スタッフブログ

2023年07月08日 (土) 公演情報

正倉院御物から復元された古代の楽器の音色とは?!(8/5 横浜能楽堂「中締め」特別公演 第1回「芝祐靖の遺産」)

(↑平安時代の舞楽などの様子が描かれた巻物より。どんな音色だったのでしょうか…?)

 

8月5日に横浜能楽堂で、雅楽演奏団体の伶楽舎を迎えて「芝祐靖の遺産」と題した公演を開催します。
故・芝祐靖(しば・すけやす)さんは、800年余の歴史ある雅楽の家出身。宮内庁楽部で活躍した後、伶楽舎(れいがくしゃ)を創立しました。笛の名手であるだけでなく、数多くの作曲を手掛け、雅楽の世界に革新をもたらした人物です。

 

芝さんが生前関わった大きな仕事のひとつに、古代の楽譜の解読・復曲や、現在は廃絶してしまった古代の楽器の復元作業があります。今回の公演で取り上げる芝さんの作品2題のうちのひとつ、「敦煌琵琶譜による音楽」は、その取り組みの代表作。1,000年以上前、唐代末~五代頃につくられたとされる「琵琶譜」(約100年前に中国・敦煌で発見されたもの)をもとに復元された楽曲群です。

今回の公演では、その中から、以下の8曲を上演します。
『急胡相問(きゅうこそうもん)』
『傾盃楽(けいばいらく)』
『風香調 調子(ふうこうちょう ちょうし)』
『西江月(さいこうげつ)』
『伊州(いしゅう)』
『長沙女引(ちょうさじょいん)』
『急曲子(きゅうきょくし)』
琵琶独奏『傾盃楽』

 

これらの作品は、正倉院御物から復元された古代の楽器のために作られました。
正倉院には、「排簫(はいしょう)」や「箜篌(くご)」など、現在は廃絶してしまった多数の楽器が残っており、芝さんはその復元作業に携わった一人。古代の音楽の「復元」とはどのようなものなのか、横浜能楽堂YouTubeチャンネルで、芝さん本人によるお話と、排簫の実演がご覧いただけます。動画の最後で、『急胡相問』の一部もお聴きいただけます。

 

8月5日の公演では、ほかにも珍しい古代の復元楽器が勢揃い!
以下、「敦煌琵琶譜による音楽」で使う楽器を一挙にご紹介します。
各楽器の紹介文は、CD『芝祐靖の音楽 復元正倉院楽器のための「敦煌琵琶譜による音楽」』(伶楽舎) のブックレット解説「使用楽器について」(宮丸直子さん執筆) をもとに構成させていただきました。
(写真提供:伶楽舎 ※写真の無断転載を禁ず)

 

排簫(はいしょう)

18本の竹を縦に並べたパンフルートの一種。
正倉院に残る「甘竹簫(かんちくしょう)」から復元しました。
芝さん本人による実演映像はこちら(前述と同じ動画です)

 

笙(しょう)・竽(う)

17本の細い竹を縦に束ねた楽器で、そのうち15本の根本にフリーリードが付き、吹き口から息を吹き入れたり吸ったりして音を鳴らします。正倉院には現行の楽器と同型の笙が3管残っています。
竽は笙と同型の楽器で、笙より1オクターブ低い音域を奏します。(写真は竽)

 

横笛(よこぶえ)

現在雅楽で用いられている龍笛のルーツ。現行楽器とは違い、竹に穴をあけただけの素朴なつくり。正倉院には、竹のほかに、玉や象牙で竹を模した管があり、計4管残っています。

 

篳篥(ひちりき)・大篳篥(おおひちりき)・メイ

正倉院には遺品はありませんが、古くは大小の別があり、現行の篳篥は「小篳篥」にあたるとされています。記録にのみ残る「大篳篥」を、低音域を奏する楽器として復元。本曲では、さらに低音域を奏する同類のダブルリード楽器として、トルコのメイも使用します。(写真は上からメイ、大篳篥、篳篥)
実演映像はこちら

 

正倉院尺八(しょうそういんしゃくはち)

正倉院には、竹以外に大理石、象牙、蛇紋岩など合計8管もの尺八が残っています。これらは現在の尺八よりも小型で、指孔の数も中世以降に伝わった尺八とは異なるため、他の尺八と区別するために正倉院尺八と呼んでいます。

 

箜篌(くご)

竪型のハープ。正倉院には2張の残欠のみが伝わっています。
破損部分を補い復元すると、脚部まで160cm程となる大型楽器。23本の絹の絃が張られています。
実演映像はこちら

 

琵琶(びわ)

正倉院には5面が伝わっています。この楽器が正倉院の時代から全く変わらない姿で伝えられ続けていたことが、敦煌琵琶譜の解読に役立ったそうです。こちらの写真は、現行の雅楽器(四絃琵琶)。本曲では、復元された五絃琵琶も使用します。

 

鉄絃箏(てつげんそう)

現行の雅楽の箏と同型で、やや小ぶり。正倉院には破損した断片が4面以上確認されており、構造は現行の雅楽器とは異なります。正倉院には絹絃も残っていますが、音色を中国の古箏に近づける意図から金属絃を用いています。

 

阮咸(げんかん)

正倉院には2面が伝わっています。細い撥か指で弾いたとされています。この楽器を好んだとされる竹林七賢の一人、阮咸にちなんでこの名前になりました。
実演映像はこちら

 

方響(ほうきょう)

音階に調整した長方形の金属片を枠に吊るした大型楽器。金属片を打って音を鳴らします。正倉院には10cm~15cmの9枚の鉄片が残っています。
実演映像はこちら

 

磁鼓(じこ)

正倉院の「三彩鼓胴」の復元品。床に置き、両手に撥を持ち、両面を打って奏します。(国立劇場蔵)

 

ちなみに、上記の楽器のオリジナルの画像を、正倉院ウェブサイトで見ることができます。

 

これらすべての古代の楽器が舞台上に並ぶ見た目は壮観ながら、華やかだけでない、どこか懐かしい音色が魅力。今回は初めて、コンテンポラリーダンスを交えて上演します。

なかなか観られない貴重な機会、8月5日はぜひ横浜能楽堂にお運びください!

 

*8/5 横浜能楽堂「中締め」特別公演 第1回「芝祐靖の遺産」の詳細はこちら

 

2022年04月24日 (日) 公演情報

横浜能楽堂催し物案内2022年5月~6月を発行しました。

横浜能楽堂館内で行われるイベントなどを掲載した「横浜能楽堂催し物案内」を隔月で発行します。

ただ今、5月8日(日)『横浜狂言堂』と6月26日(日)『第69回横浜能』のチケットを発売中です。

チケットはhttps://yokohama-nohgakudou.org からインターネットでご購入いただけます。

 

2022年5月~6月表面はこちら

2022年5月~6月裏面はこちら

 

はぜの木

2018年06月27日 (水) 公演情報

インターンシップを終えて

今回、私は大学の講義の一環であるインターンシップで6月9日・17日に開催された『花開く伝統-日台の名作と新作-』のお手伝いをさせて頂きました。

その模様を、一部ですが皆様にお伝えしたいと思います!

 

 

【リハーサル】

6月5日からは、日台の共同制作「繍襦夢」のリハーサルが行われました。

初めて見る崑劇でしたが、特徴的な節回しや身振りなど、独特の雰囲気がとても印象的でした。メイクなどの打ち合わせにも同席することができ、公演が作り上げられていく様子を肌で感じることができました。

台湾の国光劇団の方々とは通訳を介したり、英語でお話したりと、日本語・中国語・英語が飛び交う現場で、とても貴重な経験でした。

 

「繍襦夢」リハーサル

「繍襦夢」メイク打ち合わせ

 

【プロモーションビデオ撮影】

6月7日には、9月に行われる台湾公演に向けたプロモーションビデオ撮影に同行させて頂きました。衣装デザイナーの方の事務所にお邪魔し、デザインの意図や普段のお仕事について伺いました。何気なく見ていた衣装のデザインも、そこに込められた考えを知ると全く違って見えてくるように感じました。

 

衣装デザイナー取材

 

【公演本番】

本番では、出演者が舞台に登場する際の揚幕係をお手伝いさせて頂きました。

舞台に出る直前の出演者の様子を間近で拝見し、その緊張感に自分も身が引き締まる思いでした。一流の方々の持つ雰囲気に触れることができ、お手伝いさせて頂けた有り難さを改めて感じました。

 

 

大学ではクラシック音楽を学んでいますが、横浜能楽堂で普段とは異なる分野を知ることができ、自分の分野を深めたり、新しいジャンルに挑戦したり……と今後の勉強への更なる意欲が湧きました。

 

今度は、是非とも観客として能楽堂に伺いたいと思います!

ありがとうございました。

 

〈おくとぱす〉

2018年02月06日 (火) 能楽関連

和泉式部と梅の花

寒いですね。こう寒いと、出歩くのが億劫になってしまい、休みの日は家で過ごしてしまいがちです。

先日の積雪のあと。家の雪かきをしていたら、梅に一羽のメジロがやってきました。枝に雪が積もり、どこに花があるのか、すぐには分からない状況だったのですが、メジロは上手に花を啄み、飛び去って行きました。風情があって、歌の題材にでもなりそうな光景でしたが、歌心などない私は、ただ、ほのぼのとするばかりでした。

 

 

さて、梅と言えば2月10日に企画公演「能の花 能を彩る花」第4回「梅」が開催されます。上演される曲は「東北(とうぼく)」。和泉式部の霊が自らが愛した東北院の「軒端の梅」と和歌の徳について語り舞う、梅の花のような格調高い美しさに満ちた曲です。

 

この曲、特に典拠となる作品は存在しないようで、和泉式部が「軒端の梅」を植えたという話も存在しないようです。和泉式部と梅の花というと、京都の祇園祭の山鉾の一つ、「保昌山」の題材にもなっている、藤原保昌が和泉式部に紫宸殿の梅の一枝が欲しいと頼まれ、警護の北面武士に矢を射掛けられながらも一枝を持ち帰り、結ばれたというエピソードが有名ですが、「東北」では全く触れられません。

 

 

それどころか、名歌人として知られる和泉式部の歌は一首も詞章に用いられていないようです。

 

「東北」の中に登場する歌で、印象的な歌と言えば、序之舞の後に謡われる

 

春の夜の闇はあやなし梅の花 色こそ見えね香やは隠るる

 

ではないでしょうか。虎屋の羊羹「夜の梅」もこの歌から名がついており、ご存知の方の多いと思いますが、古今集に収められている凡河内躬恒の歌です。夜の東北院に香る梅の花という情景を豊かに想像させる歌だと思うのですが、ここで和泉式部の歌を引用するという選択肢はなかったのでしょうか。

 

 

調べてみると和泉式部が梅を詠んだ歌はいくつかあるようです。「春の夜の~」の歌に似ているものだと、

 

梅が香におどろかれつつ春の夜の 闇こそ人はあくがらしけれ

 

この歌も梅の香りが漂ってくるようで、素敵な歌に思えますが、「おどろかれつつ」や「あくがらしけれ」は、なかなかインパクトのある言葉で、春の夜の静かな雰囲気とは趣を異にする感じがします。また別の歌に、

 

梅の香を君によそへてみるからに 花のをり知る身ともなるかな

 

というのもありますが、この歌は相手となる存在が感じられ、やはり「東北」には合わない気がします。ここはやはり客観的に夜の梅の香を詠んだ「春の夜の~」の歌が一番しっくりくるようです。

 

考えてみると「東北」は、和泉式部がシテでありながら、和泉式部らしさを極力描かないようにしているようにも感じます。曲名からして「東北」。能に詳しくない人が聞いたら東北地方の話かと思うかもしれません。(ちなみに古くは「軒端梅」という曲名だったそうです)

 

調べれば調べるほど、作者は何を描こうとしたのか、なぜ和泉式部をシテに選んだのか、奥深さを感じます。2月10日は、どんな「東北」を見せてくれるのでしょう。人間国宝の大槻文藏さんの舞、池坊専好さんのいけばな、と見どころ沢山の公演です。お楽しみに!

 

 

 

♦公演情報♦

 

 

横浜能楽堂企画公演「能の花 能を彩る花」第4回「梅」

2018年2月10日(土)14:00開演(13:00開場)

能「東北」(観世流)大槻文藏

チケット僅少です。

 

<の>

2017年08月15日 (火) 公演情報

「能舞台とコラボ」PartⅠ

残暑お見舞い申しあげます

みなさん、「AIR」をご存じでしょうか?
空気? ゲームソフト? 飛行機?
いいえ、ここでは....
アーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence)
アーティストが一定期間その場所に滞在して創作を行うことを言います。

横浜能楽堂ではあまりなじみのない言葉かもしれませんが、
現在、ニューヨークからルカ・ヴェジェッティさんをお招きして、
ジャパン・ソサエティーとの共同制作作品「SAYUSA-左右左(さゆうさ)―」
の創作が行われています。

 

 

横浜能楽堂の主催公演では初めてのコンテンポラリーダンス。
演出・振付のルカさんが、能舞台の特色を活かしながら、
日本を代表する3人のダンサーの表現力を最大限に引き出し、
そこに能の音楽と子方(能の子役)の言葉を織り込んで、
独特の空間が生み出されています。

 

ⓒTerry Lin

 

能舞台の上でダンサーが動くことで感じられる空間。
音の広がりが醸し出す独特の空間。
音と動き、それぞれの空間が融合して、
これまでにない世界が広がります。

 

♦公演情報♦
横浜能楽堂+ジャパン・ソサエティー共同制作作品
「SAYUSA-左右左(さゆうさ)-」

【日時】2017年9月2日(土)14:00開演(13:00開場)
【会場】横浜能楽堂 本舞台
【プログラム】
新作ダンス「SAYUSA-左右左(さゆうさ)-」
笠井叡、中村恩恵、鈴木ユキオ
長山凜三、藤田六郎兵衛(能管)、大倉源次郎(小鼓)
お楽しみに!

 

トラ子

2015年03月16日 (月) 公演情報

横浜能楽堂の春と言えば…『バリアフリー能』!

こんにちは。

寒さが続く日も少なくなり、1日1日と暖かい日が増えています。

みなさま、お変わりありませんでしょうか。

 

私は2月の初め、春を探しに大倉山へ梅を見に行ってきました。

大倉山の梅

花はまだ少ししか咲いていませんでしたが、

「あったかい春ももうすぐだなぁ~」と、とっても嬉しい気分になりました。

『春』って気分が弾んできますよね。

みなさんは、どんなことで春を感じますか?

 

 

 

横浜能楽堂の春と言えば…『バリアフリー能』の季節です。

バリアフリー能 チラシ画像

 

近年では3月の桜が咲き始める頃に開催していて、今年で14回目になります。

『バリアフリー能』は、可能な限りサポート態勢を整え、障がいのある方が、

能・狂言を楽しむに当たってのバリアを取り除こう、平成12年から始まりました。

「介助者1名無料」をはじめ、視覚障がいの方へ「副音声」や「能舞台の触図」、

聴覚障がいの方へ「手話通訳」や「パソコン通訳」、

そのほかにも「途中入退場可」や「詞章[台本]配布」など、さまざまなサポートをご準備しています。

 

現在ご用意しているサポートも、すべてが第1回公演からあったわけではありません。

開催を重ねるごとに、改善の余地や新たに必要なサポートがないか、協力頂いている各障がい関係者団体の皆様や

ご来場いただいたお客様からご意見を伺い、ひとつひとつ数を増やしてきました。

開催を続けてこられたのも、『バリアフリー能』に興味を持ち、

楽しみにしてくださる方々いてくださるからこそです。

 

 

 

 

さて、

そんな「バリアフリー能」で、今年実験導入するのが、

聴覚障がいの方向け字幕配信用のメガネ型ウエアラブル端末です!

メガネ型ウエアラブル端末 エプソン「MOVERIO(モベリオ)」

エプソン「MOVERIO(モベリオ)」

 

このメガネをかけて舞台を見て頂ければ、目線の高さに台詞や詞章が表示されます。

文字は、『音声電子透かし』という人間の耳には聞き取れない音声信号情報によって配信しています。

この方法なら、無線LANなどの電波で配信する際にありがちな、通信障害がおこりにくいそうです。

 

 

そしてメガネも、より小型&軽量のものが作られています。

それがこちら!

メガネ型ウエアラブル端末 オリンパス「MEG(メグ)」〔試作品〕

オリンパス「MEG(メグ)」〔試作品〕

 

私がこのメガネを初めて見せて頂いた時の一声は、「ドラゴンボールのベジータのメガネみたい!」でした(笑)。

日本の科学技術は、すごいなぁと思います。

その最新科学技術と古典芸能である「能楽」が、横浜能楽堂で出会うのです!!

 

 

ただ、メガネって3D映画を見ていても思うんですけど、結構気になるというか、鼻が痛くなるというか…

(いやいや、けして鼻が高いわけではないですよ。)

今回は、ストレスフリーで見られるiPodtouchやiPadもご準備しています。

※現在(3月15日)のところ、字幕配信限定座席のメガネ席は残席僅少です。

iPodtouch席・iPad席は、若干お席がございます。

 

 

この『聴覚障がいの方向け字幕配信』も、聴覚障がいの方の「膝の上に置いた台本と舞台を交互に見るのは大変」という言葉から、平成25年3月開催の第12回『バリアフリー能』から導入したサポートです。

伺ったご意見をすべて形にすることは難しいのですが、

人と人とのつながりやアイデアに技術、そして思いが『バリアフリー能』を少しずつ進化させています。

 

 

 

『バリアフリー能』は障がいのある方だけの公演ではなく、

障がいのある方もない方も一緒に能狂言を楽しんでもらいたいという思いを込めた公演です。

春の暖かい日差しの中、『バリアフリー能』に足をお運び頂き、

ぜひみなさまの感想や思いをお聞かせくださいませ。

 

 

 

バリアフリー能チラシ画像

『バリアフリー能』

日時:平成27年3月21日(土・祝)午後2時開演(午後1時開場)

演目:お話 本田芳樹

狂言「文荷」(大蔵流)山本泰太郎

能「巻絹」(金春流)髙橋 忍

詳細はこちら→https://yokohama-nohgakudou.org/schedule/?p=1179

 

 

あん娘

2014年05月15日 (木) 公演情報

実感!古典芸能を「聴く」楽しみ

暗闇で聴く古典芸能

 

 

先月、沖縄タイムスに、企画公演「暗闇で聴く古典芸能」について寄稿させて頂く機会がありました(4月29日に掲載されております)。開催経緯や古典芸能を「聴く」ことについてあれこれ書いたのですが、正直なところ、私、普段あまり能を「聴くもの」として意識しておりませんでした・・・(汗)

 

 

その原稿を書いた翌々日。能「江口」を観ました。言わずと知れた鬘物の名曲で、これまで何度も観ています。その序盤は、次第に始まり、名ノリ、道行、アイとの問答、ワキのサシ謡、そしてシテの呼掛と、お決まりのやり取りが展開します。

 

 

原稿を書いた直後ということもあって、ついつい「聴く」ことを意識しながら観ていたのですが・・・すると、いつもに増して面白いのです!次第の囃子、大小のコイ合(三ツ地)の音と間、そこに笛が絡んできた時の音楽的な豊かさと言ったら例えようのない素晴らしさ。そしてワキの謡の繊細な節遣い、アイの明朗な口跡。言葉がその意味を超えて耳を楽しませ、心を震わせるのです。ちょっと意識するだけで、ここまで聴くことから得られる情報が多いとは・・・もう、目から鱗でした。そして、シテの呼掛、これは揚げ幕の奥、見所からは姿が見えないところから響いてきます。もうこれは、能が「聴く」芸能であることを実感せざるを得ませんでした。

 

 

さらに、この日の「江口」には「平調返」の小書が付いていました。この小書は、序之舞の序の部分に特殊な囃子が奏されるもので、大変重く扱われておりますが、曲に劇的な変化をもたらすものとは言えません。また「平調返」の際には、後シテの出に常の一声ではなく「沓冠之一声」と呼ばれる、これまた特殊な囃子が奏されますが、これもシテの演技には直接関係のないものです。こういったものが大切にされているのは、やはり能が「聴くもの」であるためのように思えてなりませんでした。

 

 

能を「聴く」楽しみを知ってしまった私は、後日観た組踊「大川敵討」でも「聴く」ことを実践。第一場の乙樽の唱えや、東江節などの聴きどころで思わずニヤニヤしてしまったのでした(笑)

 

 

さて、6月21日(土)開催の「暗闇で聴く古典芸能」では、「聴く芸能」と呼ばれる能、組踊、文楽の名手たちが勢揃い。名曲と知られる「西行桜」や「卅三間堂棟由来」、一管の秘曲「津島」や本土で初上演となる語り組踊「手水の縁」を上演します。照明を落とした真っ暗な会場、聴くことだけに集中できる環境で古典芸能がどのように皆様の耳に届くのか・・・?お楽しみに!

 

 

公演詳細はこちら↓

https://yokohama-nohgakudou.org/schedule/?p=1047

 

<の>

2014年04月30日 (水) 公演情報

この夏、横浜にスイス・ロマンド管弦楽団がやってくる!

ゴールデンウィーク真っ只中、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年はうまく休みが連ならず、3連休だけという方もいれば、28日をお休みにして、4連休を加える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんなゴールデンウィークが過ぎて、1か月もすれば梅雨がやってきます。そして、そうこうしている間に夏に突入していきます。

 

7月6日(日)、横浜能楽堂には、スイスからお客様がやってきます。
それは、スイス・ロマンド管弦楽団のメンバー!
お昼は横浜みなとみらいホールにてコンサートを行い、夜にはその中から弦楽四重奏とフルートの5名が横浜能楽堂で演奏します。
まずクラッシックの演奏者が横浜能楽堂の舞台に上がるのが、初めてのこと。
そこで彼らがクラッシックを演奏するだけでなく邦楽の深海さとみさん、藤原道山さんと共演もします。なんと最後の曲では、京都の上七軒の芸妓さん、舞妓さんと一緒に共演しちゃいます!
個人的には、これがとっても楽しみ。かわいいだけでなく、踊りの上手な芸妓さんと舞妓さんで、きっと皆様の目を、心を、楽しませてくれるでしょう。

 

芸妓・舞妓のお二人

 

 

これだけ聞くと、よくある和楽器と洋楽器のコラボレーションね、と思われるかもしれませんが、それだけじゃないんです。

 

これは、学術的な意味もあるのです。
それは日本・スイスの国交が樹立された、今から150年ほど前のこと。西洋化の波がおしよせ、日本にクラッシック音楽が流入してきました。
それから現在に至るまで、日本の音楽家は、和と洋の音楽を融合した音楽を生み出してきました。
その代表的な曲がお正月におなじみ、宮城道雄作曲の「春の海」です。そのほかにも、佐々紅華作曲の「祇園小唄」など、多くの曲が作られてきました。
この公演では、和洋の音楽が融合された曲を演奏し、近代音楽史の一大潮流を舞台上で再現する、という試みなのです。

 

140年の歴史のある舞台で、クラッシック演奏者と邦楽演奏家、そして、芸妓・舞妓が共演する・・・なんて公演、後にも先にもないかもしれません。
ぜひこの夏、横浜能楽堂で日本の音楽史に思いを馳せてみませんか。

 

詳しくは↓
 https://yokohama-nohgakudou.org/schedule/?cat=51&cat2=7&cat3=15&x=51&y=27

 

さきほどの「春の海」について、「和と洋の音楽が融合された曲?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんので、追記します。
日本の音楽の代表格と思われる「春の海」ですが(邦楽曲の有名な曲ではあるのですが)、実は洋楽の要素を取り入れて作曲された曲なのです。
原曲は箏と尺八ですが、バイオリンと箏の演奏もあり、宮城道雄とフランスのバイオリニスト ルネ・シュメー女史との演奏を収録したレコードがフランスやアメリカでも発売されています。

 

 

ぼたん

2014年02月14日 (金) 公演情報

今年も開催!バリアフリー能

皆様こんにちは。あん娘です。

暦の上では春ですが、先日は大雪が降ったりと寒い毎日ですね。
連日テレビでは、4年に1回の祭典・オリンピックが中継されています。
私も観出してしまうと、ついつい最後まで観てしまい、翌日起きるのがつらかったりします。
皆さんは大丈夫ですか?
決勝の時間は3時や4時ですから、夜更かしをせずに、う~んと早く寝て、と~っても早く起きればいいのですが…なかなか難しいですね(笑)。

 

さて、恒例の行事といえば、横浜能楽堂では「バリアフリー能」でしょうか。
障がいのある方もない方も一緒に能・狂言を楽しんでもらいたい-そんな横浜能楽堂の願いを込め、今年も3月22日(土)の午後2時から開催します。おかげさまで、今年で13回目の開催。私自身も、今年で4回目の担当になります。

 

「バリアフリー能」では毎年、さまざまなサポートをご用意してお客様のご来場をお待ちしているのですが、初めて担当になった年は、これらのサポートを理解するだけで精いっぱいでした。

 

 

私がこんなものがあるのか!!と思ったものの1つ。

 

能舞台の触図です。

 

能舞台触図

視覚障がいの方に「こんなものがあるよ。」教えて頂いて、第1回の「バリアフリー能」からご準備しています。
この触図、今ではめずらしいサーモフォームという機械で作っています。
原盤にボール紙やサンドペーパーなどを張り付け、焼き付けるという手法で、きれいに作るのがとっても難しいそうです。
場所によって凹凸の形が違うのが写真からわかりますか?

それぞれ触り心地が違うので、視覚障がいの方にはわかりやすい!ととっても好評なんですよ。
ところが、機械も老朽化し、原盤を作るのも職人技が必要ということで後継者がおらず、今後はもう作ることができないかもしれないということでした。
なんとか、続けて頂ければと思っているのですが…とても残念です。

 

 

オリンピックを見ていて、10代の選手の皆さんがインタビューで、
「多くの皆さんに支えてもらって、ここに立っています。」と話していました。

 

「バリアフリー能」も、たくさんの方々のご協力によって今年も開催することができます。
多くの皆様のご来場、心よりお待ちしています。

 

今年度の「バリアフリー能」は、3月22日(土)午後2時開演(午後1時開場)です。今年は、昆布売りと何某の立場の逆転が面白い狂言「昆布売」と、源氏物語を題材に、愛を失った高貴な女性の悲しみと恨みを描いた能「葵上」をお送りします。

詳細はこちら

 

バリアフリー能チラシ画像

 

●サポート内容一覧●

◎共通サポート
介助者1名無料(チケット申込時にお伝えください)
・途中入退場が可能

 

◎視覚障がいの方には…
・点字ちらし
・点字パンフレット
・メールパンフレット(Eメールアドレス宛てに、パンフレットの内容を事前送信致します。チケット申込時にメールアドレスをお伝えください)
・副音声
・触ることのできる能面展示
・能舞台の触図
・能楽堂への道案内(能楽堂HPから交通アクセスへお入りください)
・視覚障がいの方向け 施設見学会(3月2日午後2時開始 ➡ 詳しくはこちら

 

◎聴覚障がいの方には…
・解説時 手話通訳
・解説時 パソコン通訳(「パソコン通訳」は、音声をリアルタイムにパソコンで入力し、
文字にしてスクリーンに投影します)
・詞章〔台本〕配布(事前送付も)
・字幕配信(S席12列・13列、B席12列・13列座席限定。iPadやモニターで字幕を配信します。チケットお申し込み時にお伝えください。)
・聴覚障がいの方向け 施設見学会(3月2日午前10時30分開始 ➡ 詳しくはこちら

 

◎知的障がいの方には…
・チラシ・パンフレットを総ルビで表記
※公演終了後に知的障がいの方を対象とした、公演内容向上のための意見交換会を予定しております。1時間程度を考えておりますので、お時間がございましたら、是非ご参加ください。事前の申し込みは必要ございません。公演終了後は、ロビーにお集まりください。意見交換会会場までご案内致します。

 

◎車椅子の方には…
・車椅子の方向駐車場(チケット申込時にお伝えください。当日午後1時半までにお越しください。)
・通路側のお席を優先的にご案内

 

ご来場、心よりお待ち申し上げております。

 

 

あん娘

2013年09月19日 (木) 公演情報

読書の秋、芸術の秋

8月の溶けてしまいそうな猛烈な暑さも、少し和らぎ、秋が近づいているのかな・・・と思わせる今日この頃。

そんな読書の秋におすすめ・・・というか、最近読んだ本をご紹介したいと思います。

 

1冊目は、「読んで愉しむ 能の世界」。

 

 

読んで愉しむ能の世界表紙

 

 

9月1日に開催された企画公演「時々の花」第1回での解説も好評だった馬場あき子さんの著書。昭和50年に発刊された「花と余情」という本に、「新・能楽ジャーナル」で連載されていた「作り物随想」を併収し、平成21年再版されたものです。

 

内容は能の作品の解説書なのですが、一般的な解説書が、あらすじや見どころを簡潔に記載し、より多くの曲目を紹介しようとしているのに対し、本書は16曲にしぼり、一つ一つの作品の見どころ聞きどころ、舞台進行や詞章についての丁寧な説明、深い考察が加えられています。題材となる古典文学や和歌、そして「申楽談儀」や「隣忠秘抄」といった能の伝書などを引用しながら、馬場さんらしい感性の豊かさと、瑞々しい表現で綴られた文章は、今まで知らなかった作品の魅力に気づかされ、読み進めるのが本当に楽しい、まさにタイトル通りの内容。初心者の方から、能が好きな方までおすすめできる本だと思います。

 

そして、企画公演「時々の花」10月26日の第2回12月21日の第3回では、どんなお話を聞けるのか、こちらもお楽しみに!
 

もう1冊は与那原恵・著の「首里城への坂道 鎌倉芳太郎と近代沖縄の群像」。

首里城への坂道表紙

鎌倉芳太郎の名前は、沖縄の文化関係の書籍を読むと必ずと言ってよいほど登場しますし、2年前に行った特別展「祝いの色と文様」での紅型の展示を通じて、当時衰退しかけていた紅型の技術の研究や型紙の収集を行い、戦後の紅型の復興に寄与した重要な人物として認識があったので、その生涯についてもっと知りたいな、とひそかに思っていました。

本書では美術教師として沖縄に赴任した鎌倉芳太郎が沖縄に魅せられ、琉球王朝の崩壊により失われつつあった文化について幅広く調査・記録、写真や資料を残し、それらの資料、そして鎌倉の熱意が琉球文化を現代まで残していくことにどれだけ重要な役割を果たしたかが、非常にドラマティックに描かれています。また、同じく琉球文化に魅せられ、研究等を行った、伊波普猷、末吉麦門冬、伊藤忠太らの活動も描かれることで、明治以降の沖縄の芸術文化の分野における研究、保存、継承の歴史の流れが良く分かる内容になっています。今後、沖縄の文化に触れるにあたり、それらを残そうとした先人の思いを感じずにはいられないであろう、そんな気分にさせてくれる一冊です!

 

そして、この書籍の舞台・首里に建ち、鎌倉芳太郎の資料の多くが保存されている沖縄県立芸術大学。ここを卒業し、現在、第一線で活躍する琉球舞踊家たちが出演する公演「琉球舞踊 受け継がれる伝統-古典・雑踊・創作-」が11月9日(土)に開催されます。琉球王朝時代からの古典舞踊、明治以降に創作された雑踊、そして今回の公演のために作られた新作も上演される、見逃せない公演。チケット好評発売中です。

琉球舞踊 受け継がれる伝統

また、公演に併せ、10月13日(日)から12月8日(日)まで、2階の展示廊では、特別展「歌う 踊る 弾く-琉球張り子・豊永盛人の世界」が開催されます。沖縄各地でハーリー(爬竜船競争)が行われる旧暦5月4日のユッカヌヒー。かつて、この日には玩具市が並び、こどもの健やかな成長を願い、張り子を買い与えたそうですが、明治以降の玩具の発達、また沖縄戦でその文化も衰退してしまいました(鎌倉芳太郎の写真資料の中に、今では殆どが失われてしまった戦前の琉球張り子もあるそうです)。その伝統的な琉球張り子の技術を継承し、またオリジナリティあふれる創作活動を行うことで、注目を集めるアーティスト・豊永盛人の初の本格的な個展になります。どうぞご期待下さい。

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