2013年11月01日 (金) 日々の出来事
秋の神奈川美術探訪
秋真っ盛り、そろそろ紅葉も楽しみな季節となりました。芸術の秋、でしょうか。個人的に気になった美術展をいくつか紹介したいと思います。
○横浜能楽堂「歌う 踊る 弾く―琉球張り子・豊永盛人の世界」
まずは手前味噌。現在、横浜能楽堂の2階展示室で開催されている「歌う 踊る 弾く―琉球張り子・豊永盛人の世界」。このブログでも既に何度か紹介していますが、豊永さんは独学で学んだ琉球張り子の技術を生かして、独自の制作活動を続けています。今回は特別に、その豊永さんに琉球王国時代の「江戸上り」の情景を、琉球張り子で再現してもらっています。中国の影響が見られる華やかな彩色と、土地の風情が感じられる丸みを帯びたフォルム。紙で作られたその愛らしい人形たちは、独特の生命感と不思議な躍動感にあふれています。12月8日まで。
○神奈川県立近代美術館 鎌倉別館「西洋版画の流れ」
この美術館は、鎌倉駅を降りて、八幡さまを通り越して建長寺に行く途中の道沿いに建っています。今回の展示は、ルネサンス期から20世紀にいたるまでの西洋銅版画の歴史を辿っています。銅版画は社会風刺と相性がいいようで、痛烈な世俗批評や、当時の権力者を揶揄するようなものが多く見られます。貧困にあえぐ庶民の暮らしをリアリティある筆致で描いたものなど、銅版画のひっかくような線を生かして世相に鋭く切り込もうとしているようです。
同時開催されている「ジゼル・ツェラン=レトランジュ」展。背中に残された傷跡のような、飛び跳ねるノミのような、大海に浮かぶ島々のような画面が、鮮烈な印象を残します。両展覧会とも12月1日まで。
○神奈川県立近代美術館 葉山館「戦争/美術」
この展覧会は既に終わってしまったのですが、1940年から1950年にかけて戦時中を潜り抜けた画家たちが、厳しい社会状況の中でどのように自らの活動を継続させていったかを紹介しています。
一番最初に感じるのは、作家たちの「描きたいものを描くんだ!」という意志(我)の強さ。戦争へと雪崩れ込んでいく社会状況の中でも、自らの画業を最優先に邁進した様子が見てとれます。
また、今回の展示の一つの目玉となっているのが、丸木夫妻の「原爆の図」。この連作は、反戦の象徴として単独で扱われることも多いですが、それまでの画家たちの継続的な活動と連なって生まれたものだということが分かる展示になっていました。
そして最後の部屋には、戦後に描かれた様々な画風の作品が並んでいます。田舎の寒村における政治的な対立を戯画的に取り上げて、果たして戦争は終わったのだろうか、と問いかけるような作品。しかしその隣には、ようやく手に入れた平穏な時間をなんとか画面に描き残そうとしているような作品や、具体的な風景と抽象的な画面との間の緊張関係を通して、もう一度自分の画業を追求していこうとするような作品が置かれています。展覧会は終わってしまいましたが、美術館で販売されている図録を通して、展覧会の様子を伺うことができます。
…と、駆け足で三つの展覧会を紹介してみました。いかがでしたでしょうか。ご興味を持たれた方は、ぜひ足を運んでみて下さい。他にも、この時期には様々な催しが行われています。皆さまも、それぞれの秋をお楽しみ下さいませ。
(こまこ)