スタッフブログ

2017年07月23日 (日) 日常

椅子にまつわるお話です。

横浜能楽堂の2階にレストランスペースがあります。以前はレストラン営業をしておりましたが、現在はお食事スペースとして運用しています。このスペースにて、約20年前の開館以来使われているとっても素敵な椅子があることをご存知ですか?
この椅子についてもっと知りたくなり、メーカーさんに問い合わせてみました。椅子にまつわるお話をご紹介します。

その椅子は、AIDEC(アイデック)社の「VIENNA(ヴェナ)」シリーズのもので、インハウスデザイナーによりデザインされた商品。現在も同シリーズは継続販売されています。渋谷区神宮前のショールームを訪れると、様々な「VIENNA」シリーズの椅子に出会えます。国内に自社工場を持ち、多様な張り地を選択できるところにとてもこだわりがあるようでした。

 

   「VIENNA」シリーズについて(メーカーホームページより)
「19世紀初頭、それまでの装飾過多から単純明快な様式としてドイツ、オーストリア で流行したビーダーマイヤー様式、そして19世紀末、ヨーロッパの中心として活気づくウィーン(VIENNA)に登場したユーゲントスティール。これら過渡期の様式が持つ圧倒的な魅力を現代の空間に向けてリ・デザインした、優美で洗練されたシリーズです。」

 

横浜能楽堂の椅子は、木の材質はブナ材、色はチェリーブラウンです。座面と背もたれの張り地はビロードで、なんともいえないニュアンスのある淡い淡いモスグリーン。窓から差し込む光や照明、見る角度により色が変化します。背もたれの楕円の張り地の周りを白と黒の2色のブレードが囲んでいます。このブレードの触感がとても心地よく、私は気に入っています。

AIDEC社様が約20年前当時の該当する型番のカタログ写真を送付してくださいました。横浜能楽堂のものとは色・柄が異なるため、おそらく木の色・張り地・ブレードまで細々とオーダーしたものと思われます。

 

19世紀ヨーロッパのビーダーマイヤー様式からユーゲントスティール様式の過渡期のデザイン様式をもとにリ・デザインされた椅子が、同じく19世紀(明治8年)に旧加賀藩主・前田斉泰の隠居所の一角に建てられた能舞台を移築・復元した横浜能楽堂のレストランにやってくる・・・ちょっと素敵なストーリーだと思いました。

 

レストランスペースは、公演のある日には、開場から開演までの1時間はお食事スペースとしてご利用いただけます。この椅子でお食事すると、いつもの味が少し特別な味になるかもしれません。レストラン営業は行っておりませんのでお弁当などをご持参くださいませ。お声かけいただければレストランスペースのご見学も可能です。ご利用・ご見学について詳しくはお問合せください。(横浜能楽堂 045-263-3055)

 

はぜの木

2017年07月18日 (火) 能楽関連

能作者といけばなのお話

梅雨の季節みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 

時には鬱陶しい雨ですが、
雨に濡れる草木には、何とも言えない趣があります。
季節の移り変わりを感じ、自然のものをあるがままに愛で、受け入れる。
四季のある日本ならではの感情でしょうか。

 

能には草木の精霊が登場します。儚くも美しい存在の精霊たちは、
作者が自然の草木から「生命力」や「心」を感じたからこそ生まれたのではないでしょうか。
今回は、生け花への言及を通して、能作者の花へのある思いが読み取れるお話を紹介します。
世阿弥の娘婿である金春禅竹の孫、金春禅鳳の聞書『禅鳳雑談』に次のような一節があります。

 

・・池ノ坊の花の弟子、花のしほつけの事、細々物語り候。
・・是も、得して面白がらせ候はん事、さのみ面白からず候。
・・(日本思想大系23『古代中世芸術論』引用)

 

華道の池坊のお弟子さんが、花の風情や愛嬌について色々と語っていたとあり、
生け花も意図的に風情を出そうとあれこれ手を加えると、かえって趣がなくなってしまうものだと述べています。

また、次のような記述も…

 

・・花が能に近く候。花と毟り枯らし候はで、そのままに插すやうなるがよく候。
・・結い集めたる花をはらと解き候が、幕うち上候てより埒を破る心にて候。
・・花のしほひし、池の坊申され候。面白く候。

・・枯れ木に苔を続飯にて付けなどする事、嫌にて候。(引用同上)

 

やはり、花を生けるときには意図的に手を加えすぎることなく、自然のままに挿すのがよいとあります。
さらに、束ねていた花をはらりと解く様子は、幕が上がって舞台に上るときの気持ちと似ているとあり、

生け花と能とは表現方法は違えど、本質的な部分でどこか近いものを感じていたようです。

 

禅鳳の作風は、世阿弥や禅竹の「幽玄」に対して、ショー的な「風流能」が多いと言われていますが、
そのような禅鳳だからこそ、奇を衒いすぎることのないよう、その根底には自然のあるがままの美を大切にしていたのではないでしょうか。

 

さて、横浜能楽堂では『禅鳳雑談』から約500年の時を経て、「能」と華道家元池坊の「いけばな」による企画公演が開催されます。 「能」と「花」、それぞれの美しさの競演をぜひお楽しみください。

 

・・横浜能楽堂企画公演「能の花 能を彩る花」全5回 チケット発売中です!

 

こうめ

2017年06月20日 (火) 能楽関連

「焙じ室」をご存知ですか?

施設見学の際に見学者の方にご興味をもっていただける場所の一つに「焙じ室(ほうじしつ)」があります。おそらく、その名前と設えがミステリアスなのでは?と思います。演奏前に大鼓の革を焙じて乾燥させるためのお部屋で、能楽堂ならではの設備と言えます。

大鼓は、胴、革、調緒(しらべお)から構成されており、革の素材は馬で、焙じて乾燥させることでカーンという硬質の力強い音が出ます。ちなみにつくりや見た目が似ている小鼓は、同じく馬の革素材ですが、こちらは温度や湿度にとても敏感で、演奏する時には革を湿らせながら音を調節します。
写真の左から2番目が大鼓、3番目が小鼓です。

能の公演の始まるおよそ2時間前には、「焙じ室」にて、私たちスタッフが炭火をおこす準備に取り掛かります。この準備作業のことを「火おこし」といいます。手順としましては、まず火種となる炭を赤くなるまでバーナーで熱して、その後に火鉢に移します。この際に「夏下冬上(かかとうじょう)」にするとよいそうです。これは、炭火のおこし方のことで、夏は火種を炭の下に置いて、冬は火種を炭の上に置くと火付きがよいということです。あとはひたすらうちわであおぎます。換気をよくして行いますので、外気の温湿度に影響を受けやすく、湿度が高い日は火付きが悪い、温度が高い日は汗が止まらない、などの苦労もあります。炭が赤くなり安定したら、炭を形良く積み上げて「火おこし」完了です。炭は紀州の備長炭を使っています。
写真は大鼓の革を「焙じ台」に載せて焙じているところです。

毎月第二木曜日の施設見学日には、普段は見られない楽屋とともに「焙じ室」もご見学いただけます。次回は7月13日(木)10:00~11:00(無料・予約不要)です。お時間に受付ロビーにお集まりください。10名以上でご来館の場合は、あらかじめお電話にてご連絡くださいませ(横浜能楽堂045-263-3055)。皆さまのお越しをお待ちしております。

はぜの木

2017年05月17日 (水) 未分類

コケのお話

チャツボミゴケという不思議な名に好奇心をそそられ。
草津の「チャツボミゴケ公園」へ出向く。
「チャツボミゴケ公園」は、昔 鉄鉱石の鉱床があり露天堀りによる採鉱が行われていたところ。

チャツボミゴケは強酸性の水中で生育する不思議なコケ。
日本では草津、阿蘇山等限られた火山帯にだけにあるそうだ。
鉱泉の飛沫を浴びて育つ不思議なコケ。

一面エメラルドグリーンのコケが広がる神秘的な光景が目に入る。

今まで何回も草津に行ったが、草津から車で約20程度のところにあるとは知る由もなく。
興味のある方、足を運ぶ一見の価値あり。
ターニヤ

2017年04月11日 (火) 日常

能楽堂の屋根のお話です。

紅葉坂から右に折れ、かもんやま公園の正面入り口を曲がると横浜能楽堂が見えてきます。私はいつも、能楽堂の屋根は美しいな~と思っております。この屋根について少しご紹介します・・・。

横浜能楽堂は、平成14年(2002年)に一般社団法人公共建築協会「第8回公共建築賞」を受賞しているのですが、同賞の応募申込書に次のような設計意図の記載がありました。
「外観は2階壁面を屋根として扱い、これを支える1階部分の木造軸組みによる伝統的な日本建築を基調としたデザインとする」
なあるほど!建築外観のとても大きな面積を占めている屋根が、デザインのポイントだったのですね。

建築外部から屋根を見てみますと・・・。
屋根の葺き方(ふきかた)は一文字葺き(いちもんじぶき)、というそうです。水平方向が一直線に連なるように葺くことから一文字葺きと呼ばれるようです。キリッとした端整な印象を醸し出していると思います。
屋根の材質は銅です。20年超の歳月を経て緑青(ろくしょう)が発生しています。緑青は、銅が酸化することで生成された青緑色の錆ですが、屋根の場所により微妙に色の違いがあり味わい深いものがあります。同じく設計意図に次のような記載があります。
「公園の樹木と調和し、時間とともに落ち着きを増す効果がある」
まさに設計意図通りの効果になっているなあ~と思います。

最初にご紹介しましたように、2階壁面を屋根として扱う設計になっているため、2階のレストランスペースと研修室の外壁部分は、壁ではなく屋根の中に窓があります。銅の一文字葺きの中に窓があるわけですから、とても凝ったつくりだと思います。

窓の内部と外部の関係を見てみますとレストランスペースはこんな感じです・・・。
窓の間隔は、天井の格子の間隔に合わせています。そのため、狭くて縦に細長い窓がいくつも配置されているのですね。室内側からは窓なのですが、屋外側からは屋根のように見えます。

室内側

屋外側

研修室はこんな感じです。
窓の間隔は、畳と障子の寸法に合わせた間隔になっています。腰高のお部屋いっぱいにワイドな窓が配置され、見晴らしが良いです。晴れて空気が澄んだ日には、富士山や夕日がきれいに見えます。

室内側

屋外側

横浜能楽堂にお越しの際には、140年余の歴史ある本舞台とともに、美しい建築外観にもぜひご注目くださいませ。毎月第二木曜日には施設見学会を実施しております。公演日はもちろん、施設見学会日も、皆さまのお越しを心よりお待ちしております。

 

はぜの木

2017年03月30日 (木) 能楽関連

朝薫以後(田里朝直の組踊)

平成27年からスタートした「能の五番 朝薫の五番」も先月に第3回が終了。公演をご覧になった方は、玉城朝薫が作った組踊とそれに対応する能を見比べて、類似点や独自性に気付かれたのではないかと思います。

 

「朝薫の五番」は、組踊の原点となる作品として、今日でも度々上演されていますが、朝薫以降も組踊は作られており、現在でも演じられています。その中には、やはり能との関わりが指摘されている作品が幾つか存在しており、組踊「花売の縁」と能「芦刈」、組踊「雪払い」と能「竹雪」、組踊「万歳敵討」と能「放下僧」等が挙げられます。

 

「万歳敵討」の作者、田里朝直は、朝薫の次の世代に活躍した人物で、他に「大城崩」「義臣物語」「北山崩」を作ったほか、「未生の縁」「月の豊多」なども朝直作と言われています。朝直も朝薫同様、本土の芸能の影響を受けたようで、「万歳敵討」以外作品も、「未生の縁」は、能「弱法師」の典拠にもなっている俊徳丸伝説が下敷きになっていますし、「大城崩」は能の番外曲「正儀世守」と関連があると考えられます。

 

その組踊「大城崩」と能「正儀世守」ですが、両者とも敵討ちの後日談を描いた作品で、処刑の危機に陥った兄弟の前に母親が現れ、助けを乞う。母の願いにより兄弟のうち、一人を殺すことになったが、母は継子であり嫡子である兄を生かし、実子である弟を殺すように頼む。最後は、兄弟共に赦され、めでたく終わる。という話の大筋は共通しています。

しかし、大きく異なる点として、「正儀世守」に登場する兄弟は仇討を果たした側であるのに対し、「大城崩」の兄弟は、仇討を果たした側にとっては敵の子であること、が挙げられます。

 

他の仇討物を見ても、敵討ちを果たした者は称賛されるのが常で、敵討ちを果たした兄弟が捕えられ、処刑の危機に瀕した後に救われるという「正儀世守」の筋立ての方が、素直な印象を受けます。しかし「大城崩」では、敵討ちを果たした大城若按司という人物は、さらに仇の息子である兄弟までをも捕えて処刑しようとする、いわば敵役・加害者に回ります。それにより、復讐劇に巻き込まれ、処刑の危機に陥った兄弟の哀れさ、理不尽さが際立ち、より現代的なテーマを持った作品に仕上がっているように感じます。

 

朝直の組踊は他の作品も、義理人情や人間心理を中心に描かれているのが特徴です。典型的な敵討物のように思われる「万歳敵討」も、能「放下僧」には登場しない、敵(高平良御鎖)の妻子が登場しますが、それは、敵にも家庭があること(敵討をすることで新たな悲劇が生まれること)を暗示しているようにさえ思えます。

 

 

朝薫以降の作品について、矢野輝雄著の「沖縄芸能史話」には「組踊りは、玉城朝薫の五組に始まり五組につきるという。伊波普猷は『若し彼の五つ組を能とすれば、是等(他の作者の組踊り)は田舎歌舞伎の如きものであろう』と極言している」と書かれており、その評価はあまり高くないようにも思われます。しかし、能が世阿弥以降、元雅、禅竹、信光らが、様々な特徴を持った作品を生み出し、そのバリエーションが広がったように、組踊も玉城朝薫以来の「忠孝」という組踊の中心的なテーマを継承しつつも、新たな作風を持った作品が生まれていったことで、より豊かな芸能になったように思うのです。

 

なかなか色々な作者の組踊を見比べる機会は少ないかもしれませんが、作者とその作風にも注目して組踊を見ると、より作品を面白く見られると思いますよ。

 

次回の「能の五番 朝薫の五番」第4回 「放下僧」と「二童敵討」は、平成30年2月4日に開催です!

 

<の>

2017年03月26日 (日) 日々の出来事

さくらさく

花のつぼみがほころびはじめ、はなうたまじりの今日この頃です。

皆さまいかがお過ごしでしょうか?

わたしは花粉症です。

 

 

横浜能楽堂のお隣、掃部山公園の入り口には、色とりどりの花が植えられていました。

かわいい!

 

こちらは3月25日から始まるGarden NecklaceYOKOHAMA 2017(公益財団法人都市緑化機構)という横浜の全国都市緑化フェアのひとつとのこと。

春はカラフルな色の服を着たいと毎年思うのですが、毎年買わずに終わります。今年こそは……。

 

お花見の名所でもある掃部山公園には、200本の桜の木が植えられているそうです。

横浜市は4/5が満開予想日ということですが、少しでも長く咲いて欲しいと思いつつ、散り始めて風に舞う桜の花びらも大好きです。(遠山の金さんごっこも好きです。)

 

ちなみに3/25の出勤時ですが、掃部山公園の桜はまだほとんどつぼみでした。

週明けには暖かくなるようなので、ついに咲くかな? と、心待ちにしています。

 

横浜能楽堂では、みなとみらい21さくらフェスタ2017(facebook)の関連イベントとして、4月1日に特別見学会を開催します。

お時間は10:30と15:00からの2回。各回とも無料でご予約は不要です。

正午より、呈茶席がございます。

こちらはおひとり様300円で、お抹茶に横浜能楽堂オリジナル和菓子「鏡板」が付きます。

「鏡板」は加賀銘菓の老舗・諸江屋さんの伝統技法で作られた生落雁で、なんとなんと、この時期だけの桜のモチーフと桜色!(すてき!)

春らしいお菓子をお楽しみください。

 

もちろんショップにも、お土産としてご用意しております。

お花見のお茶請けにはもちろんのこと、お酒好きな方も、辛口の日本酒とあわせてぜひどうぞ!

皆さまのお越しを心よりお待ちしております。

 

追伸:桜酒って良いですよね……。

 

 

もんろう

2017年02月04日 (土) その他

春は・・・。

新年、おめでとうございます!

なんて言うと、お正月ボケ?と言われてしまいそうですが、

中国では、旧暦の正月を「春節」といいお祝いしますよね。

今年は1/28がその春節です。

横浜の中華街は春節のお祝いで賑わって(騒いで?)いました。

いくつかの門がありますが、通りを覗くと・・・

こんな感じ・・・

人、ひと、ヒト・・・(@_@。

少し進んで行くと、

これぞ中華街!

まだ、色白の鳥さん(あひるさん?)たちですが、これからこんがり焼き色がついて

あの、北京ダックになるんですね~)^o^(

さらに進んでゆくと・・・

中国版 獅子舞です。

店頭で、にぎやかな太鼓やシンバルの音に合わせて踊って、

最後に爆竹で締め、次のお店へと回って行きます。

踊っているときは、四つ這いというか低い状態で舞っていますが、

(あまりに人が多くて低い状態の獅子は撮れませんでした<(_ _)>

最後に、ぐ~~んと伸び(?)ます。

ゆるきゃらの、ね○~るくんみたいに(-_-;)

 

人ごみが苦手な私は少々息苦しく、頭痛がしてきたので横道に入ったのですが、

どこもかしこも人だらけ・・・肉まんと小龍包の匂いに包まれながら出口へ辿りつきました。

あまりの人の多さで入場規制をするほど

とっても賑やかな中華街の春節でした。

日本は、もうすぐ節分ですね。

少しづつ春が近づいてきているように感じる今日この頃です。

<momo>

 

 

 

 

2017年01月16日 (月) 日々の出来事

マチネの終わりに

みなさま、あけましておめでとうございます。

みなさま年末年始はどのように過ごされましたでしょうか。

私は実家に帰り、昨年の夏にはまった本を読み返しました。

 

昨年、舞台、映画、展覧会などたくさんの素晴らしい芸術作品に出合いましたが、その中で最も心を動かされたものの一つ。思わず休みに再度読んでしまいました。何度でも繰り返し味わいたくなる作品です。

 

平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』という本。

去年の夏はドキドキが止まらなくて、寝不足になりながら読みふけっていました。

 

書籍『マチネの終わりに』

書籍『マチネの終わりに』

 

『マチネの終わりに』は、天才ギタリスト・蒔野聡史と、国際ジャーナリストである小峰洋子が、東京、パリ、イラク、ニューヨークと世界を舞台に展開する、美しい大人の恋の物語。

 

登場人物の心の襞、感情の動きがとても繊細に、丁寧に描かれていて、「わかる!わかる!!」と頷けることがたくさんあり、また経験したことのない感情や思いについても「なるほど」と理解しやすい比喩で表現されていました。

たとえば、主人公である蒔野の音楽に対する解釈、スランプ時の苦悩、洋子に対する感情の動き。そして、洋子の二人の男性の間で揺れる気持ち、バグダッドでの経験からのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の苦しみ。

またそれだけでなく、蒔野のすばらしい演奏を聞いた後の観客の興奮の描写も、うまくいかなかった演奏のギタリスト仲間のコメントも「そういう感じある!」と思える形容です。

コンサートで流れる音楽が聞こえてくるような、イラクでの混乱が目に浮かぶような、また蒔野・洋子とジャリーラという洋子の部下の三人のあたたかな優しい空間が瞼に浮かんでくるような、そんな文章でした。

そこが私にとってこの小説の一番の魅力。

 

そして私をうっとりさせたのは主人公の人物像。

小さな頃から天才と言われてきたギタリストの蒔野。著名な映画監督であるユーゴスラビア人と日本人の間に生まれ、世界をまたにかけ活躍する洋子。

二人は、私にとってまさに憧れの存在で、現代版の王子様とお姫様のようでした。

そこで、勝手にキャスティングを考えてみちゃいました。。。

蒔野聡史は大森南朋さん。

小峰洋子は吉瀬美智子さん。

といった感じでしょうか。

 

一章一章、読み終わるたびに、うっとりと余韻に浸るような、その章をぐっとかみしめる時間が必要な、そんな作品でした。

ぜひ読んでみてください!

 

ぼたん

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